ショパンコンクール2021:2次予選1日目の印象に残った曲と感想

コンクール

2021年第18回ショパンコンクールの2次予選は、全ての演奏をリアタイで見ると決めています。

昼夜逆転して結構きついことがわかりました。初日が終わってピアニストたちの熱演を見てその後にすぐ眠るのは困難。眠りについたとしても浅くなってしまいます。

でも見ちゃうよね!

2次予選の初日を見て、とにかくレベルが高いと思いました。1次予選ももちろんハイレベルだったけど、2次予選になってグッと全体のレベルが底上げされた感じで、出場者たちの本気モードもビシビシ伝わりました。

見ていてかなり惹きつけられた!と同時に、これを審査する審査員は大変だなと思いました。

2次予選で出場者たちが弾いた曲の中で、各ピアニストについて1曲ずつ印象に残った曲と感想を書いていこうと思います。完全なる私の好みです。

なお、私は昔ピアノを習っていただけの素人で、今は聴く専門で楽しんでます。

10月9日 Morning Session 前半

まずは初日のトップバッター3名。モーニングセッション前半で好きだった曲と感想です。

Arsenii Mun(アルセニー・ムン)
スケルツォ第1番 / Scherzo in B minor, Op.20

Szymon Nehring(シモン・ネーリング)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ / Andante spianato and Polonaise in E flat major, Op.22

Viet Trung Nguyen(ヴェト・チェングウェン)
舟歌 / Barcarolle in F sharp major, Op.60

Arsenii Mun(ロシア)
YAMAHA CFX
ロシアの若いピアニスト。
1次予選の時は焦ってしまったのか不安定な面が見えていたけど、2次予選は見事に切り替えてきました!トップバッターのプレッシャーをいい感じで活かせていて、別人のようでした。
それは最初に弾いた「マズルカ風ロンド」で感じました。ちゃんと空気を作っていて、1次予選と全然違うって。
私が一番好きだったのは「スケルツォ第1番」です。スピード感、躍動感と迫力があって、ゾクゾクしながら聴いてました。このスケルツォで乗ったのか、次に弾いたアンダンテも良かったです。

Szymon Nehring(ポーランド)
スタインウェイ 479
2015年ショパンコンクールのファイナリストで予備予選免除のピアニスト。
最初からずっと安定の演奏。さすがファイナリストの貫禄でした。素人な私にはCDみたい。
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は音の粒が本当に美しく、うっとりするような演奏。とっても煌びやかな音と、柔らかい包み込むような音が印象的でした。
全体を通して本人も手応えを感じた演奏だったように見えました。

Viet Trung Nguyen(ベトナム/ポーランド)
スタインウェイ 479
地元ポーランドで大拍手を浴びたシモン・ネーリングの余韻の後というプレッシャーの中でちょっと緊張しているようにも見えましたが、美しく聴かせてくれました。
ペソ(重み)がある「舟歌」が素敵でした。舟歌らしい揺れが、彼の表現する揺れがとても心地よかった。ラストまで重みを失わずに彼の舟を楽しみました。
自分の演奏をしっかりと噛み締めながら弾く感じが好印象で、人柄の良さが演奏にも挨拶にも出てました。

午前前半の感想

このモーニングセッション前半の3人が弾いた段階で、レベルの高さに驚きました。この演奏が基準になるのかと。

若さ感じるアルセニー・ムンと緊張してそうだったヴェト・チェングウェンの間に演奏したシモン・ネーリングの安定感が印象に残ってます。地元ポーランドということで、聴衆の期待も大きかったような感じ。

予備予選・1次予選と通過している人たちだから、みなさん世界で通用するレベルのピアニストなんですよね。その中でさらに競うということ。本当にハイレベルな世界なんだなと思いながら、休憩タイムに急いで夜ごはんを食べて後半にスタンバイ。

10月9日 Morning Session 後半

1日目モーニングセッションの後半は、私の推しピアニストGeorgijs Osokinsが弾く回でした。

Georgijs Osokins(ゲオルギス・オソキンス)
幻想ポロネーズ / Polonaise-Fantasy in A flat major, Op.61
マズルカ作品30 no.4 / Mazurka in C sharp minor, Op.30 No.4
マズルカ作品50 no.3 / Mazurka in C sharp minor, Op.50 No.3

Evren Ozel(エヴリン・オゼル)
バラード第4番 / Ballade in F minor, Op.52

Kamil Pacholec(カミル・パホレツ)
ワルツ / Waltzes, Op.64
 ワルツ第7番 / No.2 in C sharp minor
 ワルツ第6番(小犬のワルツ) / No.1 in D flat major

Georgijs Osokins(ラトビア)
YAMAHA CFX
2015年ショパンコンクールのファイナリスト。椅子がとても低い。コンクールでも安全策を取らず、自分の音楽を表現するオソキンスが好きです。
各演奏者につき1曲を選ぶと言いながら、結局マズルカ2曲と「幻想ポロネーズ」選んでしまいました。
幻想ポロネーズは力強くて、ロマンティックで、まさに「幻想」と思うような響き。最後の一音が美しすぎて、見ながら思わず「うわ!」って声を出してしまった。会場にいたらあの一音を聴けただけでも幸せだろうと思います。最初の1曲で一気にオソキンスワールドに連れて行かれました。
オソキンスで好きだった曲に選んだのは「マズルカ30-4・50-3」です。堂々とした哀愁ある躍るマズルカはたまらないです。音と音の間や抑揚のつけ方が個性的で好き。マズルカ30-4のトリル(でしたっけ?)の巧妙さ。マズルカ50-3の壮大さ感じる歌い方。静寂のコントロールは抜群の魅力です。C sharpの同音階で2曲続いたマズルカは、まるで物語の世界にいるようでした。
2015年ショパンコンクールでもやってたけど、「ワルツ第4番」から間をあけずに「英雄ポロネーズ」に入るやり方がにくいです。
曲数が多く攻めたプログラムでしたが、聴いている人を惹きつける演出なのだと。何度も聴きたくなる演奏はやっぱりオソキンス!でした。

おすすめ記事 ▷ ゲオルギス・オソキンスの音が聴きたい!光をくれたピアニスト

Evren Ozel(アメリカ)
スタインウェイ 479
2020年の「ショパン国際コンクールinマイアミ」2位で予備予選免除のピアニスト。
1次予選で聴いた時上手な人だなと思いましたが、やっぱり上手でした。
まっすぐきれいな音、美しい響き。「バラード第4番」の柔らかい音や、間の取り方が好きでした。
表情や動きを作ることもなく、これぞ正統派って感じです。そんな正統派の「ポロネーズ第5番」とも迷ったんですが、1曲選ぶなら優しい音に惹かれたバラード4番にしました。

Kamil Pacholec(ポーランド)
スタインウェイ 479
2019年の「パデレフスキ国際ピアノコンクール」2位で予選免除のピアニスト。
1次予選のエチュード10-4で手がもつれたのかスローダウンしたりして不調なのかなと思ってましたが、2次予選では安定してました。
ワルツ第4番で注目を引いて「ワルツ第7番・第6番(小犬のワルツ)」が良かった。これがポーランドのワルツなのかなと色々想像したり。その後の安定した「スケルツォ第2番」につなげた感じ。
いやみな表現が全くない正統派。この方控えめで優しそうだと思いました。

午前後半の感想

モーニングセッション後半はオソキンスの世界観が独特で、選曲にリサイタル感。1次予選の時はそこまで個性を出していなかったように思いますが、2次予選からオソキンスの世界を爆発させてきました。

オソキンスの後の2人は割と控えめな正統派の演奏だったので、私は物足りなく感じちゃってオソキンス病になってました。同じようにオソキンス病になってた人はいた模様。

10月9日 Evening Session 前半

初日の午後セッションは日本人が3人出ました。午後セッションでは若き才能にびっくりしました。

Hao Rao(ハオ・ラオ)
舟歌 / Barcarolle in F sharp major, Op.60

Sohgo Sawada 沢田蒼梧
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ / Andante spianato and Polonaise in E flat major, Op.22

Aristo Sham(アリスト・シャム)
スケルツォ第2番 / Scherzo in B flat minor, Op.31

Hao Rao(中国)
スタインウェイ 479
まだ17歳の若いピアニスト。1次予選はリアタイで見ていなくて通過者発表されてから見て、演奏を楽しみにしていました。
最初に弾いた「バラード第3番」は多彩な音が素敵だった。出だしから音がきれいで、たった17年をどう生きたらそんな音が出せるの?と感嘆しました。
「舟歌」の素直な柔らかい音が夢見心地にさせてくれて、最後の盛り上げ方がすばらしかった。どんなに心で歌ったらこんな舟歌が弾けるんだろう。
とにかく17歳とは思えない表現力と落ち着きで、終始驚きを隠せなかったです。でも演奏後はかわいらしい17歳に。なんなんだこのギャップは!

沢田蒼梧(日本)
SHIGERU KAWAI
名古屋大学医学部の4年生のドクターピアニスト。1次予選リアタイで見てなかったけど、後で見て同じく楽しみにしてました。
沢田さんの魅力はとっても高貴な音だと思います。世界のカワイピアノファンを増やしたのではないかと思うほど、洗練された美しく上品な音を奏でるのです。
そしてどこか儚い繊細さも魅力的。沢田さんだから出せる音だと感じました。
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」はその沢田さんの音の魅力が曲に合っていました。こんなにキラキラしたアンダンテ・スピアナートになるんですね!
沢田さんの優しくてキラキラした音と儚い感じが、とっても心に響きました。
しかし、こんなドクターいたら惚れてまうやろ!

Aristo Sham(中国/香港)
スタインウェイ 300
おしゃれさんなのかな?鬼滅の刃を彷彿とさせる千鳥格子柄の靴下が気になって、履き替え忘れちゃったのかと思いました。
1次予選見て、かなり速く弾ける人だなという印象を持ったのですが、やっぱり速弾きがお得意のようでした。
そんな彼のスタイルが合っていたと思ったのは「スケルツォ第2番」です。サバサバした性格なのか、緩急がはっきりしていて、潔く気持ちがいいスケルツォ。
水が流れるようなサラリとした速弾き。ラストは戦車のような突進力で失速せずに弾き切ったのは印象的でした。

午後前半の感想

若干17歳のハオ・ラオくんを見て、音が若いねぇというセリフは迷信なのかなと思いました。年齢は関係ないと思わせる演奏。

沢田さんの前のハオ・ラオくんは会場の拍手がすごく、沢田さんは緊張しているのかなと思ったら、舞台袖でハオ・ラオくんと手を付き合わせてたのを見て、温かい気持ちになりました。同志の存在って大事。

沢田さんもかなり拍手が大きかったですよね。彼の高貴な音を会場で聴いてみたかったです。沢田さんの演奏をもっと聴いてみたいと思いました。

10月9日 Evening Session 後半

初日最後の午後セッション後半は日本人が2人出ました。ここまででもかなりハイレベルだけど、後半戦もハイレベルだった。

Miyu Shindo 進藤実優
ワルツ第5番 / Waltz in A flat major, Op.42

Talon Smith(タロン・スミス)
子守歌 / Berceuse in D flat major, Op.57

Kyohei Sorita 反田恭平
マズルカ風ロンド / Rondo à la mazur in F major, Op.5

進藤実優(日本)
スタインウェイ 479
最初に弾いた「バラード第1番」から情感たっぷりで、聴かせる演奏でした。溜めもたっぷりで、表現力すごいなと思って年齢調べたら19歳でびっくり。
感情をかなり入れ込んで弾く方なのかとお見受けしたけど、そんな情感たっぷりに弾く合間に弾いた「ワルツ第5番」が輝いていました。軽やかで優雅でとっても心地いい。抑揚のつけ方が好みでした。
可憐で丸くて柔らかい音のアンダンテ・スピアナートも良かったので迷ったけど、大きく溜める他の曲の中で煌めきが際立ったワルツを選びました。

Talon Smith(アメリカ)
スタインウェイ 300
この方も19歳の若きピアニスト。見た目と演奏の落ち着きから、まさか10代とは想像できず。
舟歌→子守歌→ワルツ第8番→アンダンテ・スピアナートと、彼自身のピアノをよくわかった上での選曲なのかなと思いました。彼の柔和な雰囲気にあった演奏順で、終始柔らかい音に包まれて母の腕の中で眠っているような心地よさでした。
「舟歌」と「子守歌」の並びを真夜中に聴いたので、本当に子守歌になりそうに眠りそうになりました。夢見心地の中で聴いていたのかもしれません。
上品、自然、透明感。そんな単語が彼の演奏からは浮かびます。

反田恭平(日本)
スタインウェイ 479
初日最後は日本人ピアニスト。とっても注目されている方ですね。
1次予選は熱の入った演奏でしたが、2次予選はさらにリサイタルっぽい世界観ができあがってました。
アンダンテ・スピアナートも完成度高かったと思ったので迷ったけど、私が心惹かれたのは「マズルカ風ロンド」です。遊び心があって美しく軽やかな音、力強い音など音運びのセンスが好きでした。
このロンドで完全に自分の世界に入れたのか、その後のバラード2番、アンダンテ・スピアナートも良かった。流れをつかんだって感じに見えました。
会場の拍手大きかったし、反田さん自身も手応えを感じた演奏だったと想像してます。

午後後半の感想

深夜帯は睡魔もあるけど、ちょっと疲労との戦いになってきました。ずっとPCの画面見てるの疲れます。

初日は舟歌やアンダンテ・スピアナートが続いたので、反田さんが弾いた「マズルカ風ロンド」は新鮮な空気が入って特に印象に残った気がします。

そこからラストまでの流れは圧巻でした。安定していたし、自信持って弾いているように見えました。

2次予選1日目を聴き終えて

初日はアンダンテ・スピアナートをを弾いた人が多かったですね。

これだけ多くの人が同じ日に弾くと、印象に残せるか比べられてしまうかのどちらかになるので、抜群に弾けると勝負曲になる一方でリスキーな曲にもなったのだなと思いました。

反田さんが終了後のインタビューで「F major」の曲を3曲連続で弾くのはリスキーだけどうまくいけば効果的になる、と言っていました。引き終えて「頭が疲れた」と言っていたし、戦略的に臨んでいた(当たり前か)のですね。

コンクールはある意味、頭脳プレーでもあるのだなと素人は感じた次第。

次に進むための点数を取りに行くプログラムにするのか、自分が好きな曲を弾くのか、観客に訴えかけるプログラムなのか、それぞれのピアニストの思いを読みながら聴くことができたら興味深そうです。

これを書いている本日は2次予選の2日目。数時間後に始まります。結構寝不足だけど、2日目も注目しているピアニストが出るので楽しみます!

moni

引きこもり中のゆるい推し生活を綴ります。スペインのセビージャでフラメンコ留学してました。趣味でピアノを習っていたのは4歳〜16歳くらいまで。素人です。話す言...

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