ショパンコンクール2021:2次予選2日目の印象に残った曲と感想

2021年第18回ショパンコンクールの2次予選は、全ての演奏をリアタイで見ると決めています。
2次予選初日にレベル高いなと思いましたが、2日目はさらにおもしろいセッションが見られました。
2次予選2日目に出場者たちが弾いた曲の中で、各ピアニストについて1曲ずつ印象に残った曲と感想を書いていこうと思います。完全なる私の好みです。
なお、私は昔ピアノを習っていただけの素人で、今は聴く専門で楽しんでます。
Contents
10月10日 Morning Session 前半
モーニングセッション前半はYouTuberとしても有名なかてぃん(角野隼斗)さんが登場。多くの方が視聴していたようです。
バラード第4番 / Ballade in F minor, Op.52
Hayato Sumino 角野隼斗
マズルカ風ロンド / Rondo à la mazur in F major, Op.5
Yutong Sun(ソン・ユトン)
ワルツ第5番 / Waltz in A flat major, Op.42
ポロネーズ第5番 / Polonaise in F sharp minor, Op.44
Szuyu Su(台湾)
スタインウェイ 479
かつて韓国で「国民の妹」と呼ばれたキムヨナを思い出すような、かわいらしい台湾の国民の妹感。
1曲目のアンダンテ・スピアナートでは、2日目トップバッターにぴったりな澄んだ音を聞かせてくれました。
最後に弾いた「バラード第4番」は彼女の真っ直ぐなきれいな音が合っていて、美しいバラードでした。
大舞台でも緊張しないのか堂々と弾いていて、台湾の国民の妹は芯が強い女性なのかなと見ていて思いました。それが真っ直ぐなピアノにも表れている感じ。
角野隼斗(日本)
スタインウェイ300
人気YouTuberかてぃさん。彼が登場するとショパンコンクールのYouTubeの視聴者数が跳ね上がるし、相当なプレッシャーの中で弾いていたのかなと思います。
最初に弾いた「マズルカ風ロンド」は優しく軽やかな音。心地よい音の運び。過剰な動きがなくて自然体で、目の前の音に向き合ってる感じが好きでした。
勝手に角野さんは豪快に弾くイメージがあったので、ど直球なクラシックピアノを弾く時はいい意味で落ち着いた方なんだなと思いました。感受性の豊かさが伝わる繊細な演奏でした。
Yutong Sun(中国)
スタインウェイ 479
予備予選免除の中国のピアニスト。大泉洋みたいな顔で飄々とすごいものを弾く。1次予選で姿を見て、自然体と静寂が好きで楽しみにしていました。
かっこよすぎ!ゾクゾクする演奏でした。
たっぷりと弾いた「バラード第3番」は、独特な間の取り方と深みのある音。まるで長老が弾いているような魅力。1次予選と同じく最初のバラードで一気に心を掴みます。
その次の「ワルツ第5番」がすごかった。たっぷり弾いたバラード3番と対比するような軽快さとスピード感ある音の流れ。センスの良い緩急。低音は音の層が厚く大人なワルツ。いやぁ好き!これでもう心完全に奪われ。
「ポロネーズ第5番」は堂々とした迫力と大人の風格。気高い美しさの中に人間の黒い部分を感じる演奏で、たまらない。
すでに白旗あげてる状態で「スケルツォ第3番」は、長身から出る迫力、重厚感、躍動感。そりゃ曲終わる前から拍手出ますわ。
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午前前半の感想
台湾の国民の妹Szuyu Suの澄んだ音、角野さんの繊細な音、Yutong Sunの大人の風格が印象的でした。
Yutong Sunは1次予選では地味に表現力のある演奏をしていましたが、脳ある鷹は爪を隠してたという感じ。そして人の心を掴む演奏順でした。
ものすごい高揚感に包まれながら休憩タイムに夕食。あまり時間がない中、Yutong Sunのワルツを聴き直しながらご飯とお味噌汁と明太子食べて午前後半のスタンバイです。
10月10日 Morning Session 後半
日本の牛田智大さんが出たモーニングセッション後半。いやぁこの回レベル高かった!もはや1曲だけを選ぶのが困難になってきています。
バラード第4番 / Ballade in F minor, Op.52
舟歌 / Barcarolle in F sharp major, Op.60
Andrzej Wierciński(アンジェイ・ヴェルチンスキ)
英雄ポロネーズ / Polonaise in A flat major, Op.53
Yuchong Wu(ユツォン・ウー)
ワルツ第2番 / Waltz in A flat major, Op.34 No.1
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ / Andante spianato and Polonaise in E flat major, Op.22
牛田智大(日本)
YAMAHA CFX
予備予選免除の日本人ピアニスト。白い手と屈託ない笑顔がまるで天使のようです。
物語を紡いでいるような選曲と流れで、牛田さんが表現する美しい世界観に酔いしれました。
奥行きと輝きがある音が印象的だった「バラード第4番」。小柄な体は想像できないくらいのダイナミックさがあって、壮大な音楽を感じました。音、響き、静寂すべてが美しい。
「舟歌」は柔らかい音、力強い音、高音の煌びやかさにうっとり。牛田さんが2次予選ではテンポの設定に気をつけたと言っていましたが、意識したリズムの揺れだったのでしょうか。心地良かったです。深みのある最後の一音が最高でした。
Andrzej Wierciński(ポーランド)
スタインウェイ 300
地元ポーランドのピアニスト。この方はなかなかおもしろい演奏で、ポーランドの遺伝子的なものをすごい感じた人です。
「ワルツ第1番(華麗なる大円舞曲)」の心地よい揺れ。最後にペダルを踏まないカラッとした瞬間があったのが私的には新鮮で、意表をつかれた感じでした。
「英雄ポロネーズ」の独特のリズムと上品な豪快さが魅力。これを聴いて、ポーランド人の血にはポロネーズのリズムが刻まれてるのかなと思いました。ワルツもそう思ったんだけど、言葉では表せない独特のリズムの揺れがある。本人は意識してなさそうだから、もうあれは遺伝子じゃないかなと。
他の曲も聴いてみたい。動じない感じで巨匠風。
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Yuchong Wu(中国)
スタインウェイ 300
今にも新作のスマホをプレゼンするのかなという出立ちで登場。演奏し出したらとにかく上手い!メモにも上手いね〜ばかり書いてある。
ミスタッチあったのかな?というくらい不安要素がない安定した演奏。自分の弾きたいように弾けてる感じ。でいて、音が全部きれい。
華やかで抑揚がある大人な「ワルツ第2番」から続いたワルツ3曲良かったです。弾く時に自分で「ハッ」って言ってるっぽくて、その声をマイクが拾っていてこっちは驚く。
この音だったら「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」も美しいだろうなと思ったらやはり美しかった。間の取り方が心地いい。華やかさだけじゃなく、哀愁感じる音の響きが素敵でした。
最後もやっぱり新作スマホのプレゼンして帰っていくお姿でした。
午前後半の感想
この回はレベル高かった!3人の個性の違いがはっきり出ていて、見ていておもしろかったです。
牛田さんは、音楽に真剣に向き合ってきた人なのだなと感じる演奏でした。物語のような演奏順がとても魅力的でした。次も牛田さんの表現する世界を見せてほしいです。
10月10日 Evening Session 前半
眠気との戦いになってくるイブニングセッション。現地にいる人にとっては午後の方が弾きやすい時間なのだろうけど、日本で見る視聴者は気合が入ります。
ノクターン第20番(遺作)
Zi Xu(シュー・ツィ)
スケルツォ第2番
Piotr Alexewicz(ピオトル・アレクセヴィチ)
バラード第4番
Lingfei (Stephan) Xie(カナダ/中国)
スタインウェイ 300
今時の俳優みたいな髪型で首にスカーフを巻いて登場。中村倫也と竹内涼真を足して2で割ったようなお顔立ち。
音の粒がきれいで、飾らない繊細さが印象的な演奏。まっすぐな音色はかなり好き。最初は緊張していたのかミスタッチが目立ったけど、「ノクターン第20番(遺作)」の繊細な入りと高音の響きが美しすぎました。柔らかい音が往年を感じさせるものがあり、物悲しい孤高が表現されているようです。不思議な魅力を持った方。
ここから調子を取り戻したようで、次のアンダンテ・スピアナートも流れる水のような音の粒がきれいでした。
最後の脱力感あるお辞儀wにほっこり。
Zi Xu(中国)
スタインウェイ 479
とても個性的だった中国のピアニスト。サラリーマン風の装いで身長が高い。
ノクターン13番とバラード2番の出だしがものすごくゆっくり。深夜にこの速度は寝かせにきてるのかと思うほど。でもずっとゆっくりな訳ではなく、途中速く弾く部分もあり、静と動を速さで表現するスタイルなのかな。
その静と動の魅力を「スケルツォ第2番」でよく感じました。かなり独特な表現で、途中からその独特さが癖になる感じ。高身長で弾くスケルツォは迫力あり。
Piotr Alexewicz(ポーランド)
スタインウェイ 479
地元ポーランドの予備予選免除のピアニスト。2020年ワルシャワのピアノコンクールで優勝。
ハリーポッターに似てると言われてらっしゃるそうな。そうかな?知的そうに見えます。
「ポロネーズ第5番」から弾き始めるとは自信の現れなのか、ものすごく上手い。割とスローテンポでたっぷり目、力強く堂々としていました。この演奏はこの後を期待させる…そして期待を裏切らなかった!ワルツ2曲の絶妙な揺れと軽快な音、マズルカ風ロンドの立った音の粒。素敵でした。
ラストに弾いた「バラード第4番」は一音一音丁寧に弾いている感じがします。柔らかく澄んだ音で情景が目に浮かぶよう。フォルテのきれいな響き。ラスト勢いがあってアグレッシブな感じで好きです。
まだ21歳だけど立ち振る舞いが大人びていて素敵。攻める正統派で聴かせる実力者。
午後前半の感想
午後前半も個性的な面々が揃いました。
印象に残ったのは最後に弾いたポーランドのPiotr Alexewiczくん。ワルシャワのコンクールで2020年優勝ということで、おそらく地元ポーランドの期待は並々ならぬものがあると思います。そのプレッシャーを感じさせない攻めた正統派でした。
10月10日 Evening Session 後半
もうすぐ夜明けだなイブニングセッション後半。
ポロネーズ第6番(英雄ポロネーズ) / Polonaise in A flat major, Op.53
J J Jun Li Bui(JJジュン・リ・ブイ)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ / Andante spianato and Polonaise in E flat major, Op.22
Leonora Armellini(イタリア)
Fazioli
2010年のショパンコンクールにも出演したそうなイタリアのピアニスト。1次予選見られていないのですが、気になっていました。
バラード2曲の後に英雄ポロネーズを弾くという攻めたプログラムだけど、それが良く出たみたい。
ダイナミックで情感たっぷりなすばらしいバラード2曲の後に迎えた「英雄ポロネーズ」。全くスタミナ切れすることなく、大きめの身体から放つ豪快なポロネーズ。女性で迫力ある英雄ポロネーズかっこよすぎ!男まさりな力強さと母のような優しさ。圧巻です。深夜帯じゃなかったら私も家で拍手しながら「ブラボー」って言いたかった。
本人もやり切った表情でした。弾いている時は美しく、弾き終わった後はとてもかわいらしいハニカミが印象的。
J J Jun Li Bui(カナダ)
SHIGERU KAWAI
Leonora Armelliniさんの後に会場の拍手が全然鳴り止まなかったので、その後に弾くJ J Jun Li Buiはやりにくいだろうなと思ってたら、全然心配いらないくらい一気に空気を変えてきた上にこの方もものすごかった!
華麗なる変奏曲のキラキラしてはっきりした音。深みのある幻想曲、リズムの取り方のセンスも素敵。最後の音の美しい響き。気になって年齢調べたら17歳でびっくり2回目。最近の17歳は一旦時空を超えてでもいるの?17歳でこの重みが出せるのですか…。
こうなったら「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」期待しちゃいます。とにかく響きが美しく「華麗なる」という言葉がぴったり。一つ一つの音がはっきり聴こえて、ラストは流れるような音の粒にうっとりしました。終わりに被る会場の拍手。私も「ブラボー」言いたかったです。
メモに書いてた「恐ろしい17歳2人目」
午後後半の感想
Leonora Armelliniの長引く拍手の後、J J Jun Li Buiの1曲目が「華麗なる変奏曲」だったのが良かった気がします。すぐに自分の世界に連れて行き、余裕で楽しんでいるように見えました。
カワイのピアノで沢田さんとJ J Jun Li Buiさんの2人がアンダンテ・スピアナートを弾いたのを聴いて、2人のアンダンテ・スピアナートの生き生きとした音がかなり好きだったので、たぶん私はカワイのピアノで弾かれるアンダンテ・スピアナートが好きなんだなと思いました。一番高音がはっきりとしていて、キラキラ煌めいて聴こえます。
最後のセッションにすごい2人ぶっ込まれたので興奮冷めやらず、なかなか寝付けなかったです。
2次予選2日目を聴き終えて
もう本当にレベルが高くて素晴らしい演奏にたくさん出会えました。みんなすごく頭が回らない〜。
初日はアンダンテ・スピアナート祭りだったけど、2日目は数は減ったもののやはり人気曲ですね。バラード4番も多かったかな。
これを書いている本日は2次予選の3日目。もう1時間後に始まります。昨日(本日早朝の)2人の熱演のおかげでまたもや寝不足だけど、今日も楽しみます!
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