ショパンコンクール2021:2次予選3日目の印象に残った曲と感想

2021年第18回ショパンコンクールの2次予選は、全ての演奏をリアタイで見ると決めています。
3日目の出演者は予備予選を見ていない方が多かったので、新鮮な気持ちで視聴しました。
2次予選3日目に出場者たちが弾いた曲の中で、各ピアニストについて1曲ずつ印象に残った曲と感想を書いていこうと思います。完全なる私の好みです。
なお、私は昔ピアノを習っていただけの素人で、今は聴く専門で楽しんでます。
Contents
10月11日 Morning Session 前半
モーニングセッション前半に出場する3人とも1次予選を拝見していなかったので、予備知識なく見始めました。
ポロネーズ第5番 / Polonaise in F sharp minor, Op.44
Kai-Min Chang(台湾)
英雄ポロネーズ / Polonaise in A flat major, Op.53
Xuehong Chen(中国)
舟歌 / Barcarolle in F sharp major, Op.60
Michelle Candotti(ミシェル・カンドッティ)
スタインウェイ 479
大人しそうなかわいらしい雰囲気のある人でしたが、ピアノは力強さと憂いがあって惹かれます。
重ための響きがクラシカルな感じで、気持ちが落ち着く演奏。
「ポロネーズ第5番」は力強く情熱的な演奏で、秘めた闘志と芯の強さを感じました。クラシカルな上品さは失わず。直球な表現でとても魅力的でした。
Kai-Min Chang(ジャン・カイミン)
スタインウェイ 300
プログラムの魅せ方がとても上手だなと思った方です。
最初の「幻想曲」の丁寧な音の響きや幻想的な響きを聴いて、最後に弾く英雄ポロネーズへの期待値がかなり高まりました。3つのエチュードやワルツでいろいろな雰囲気や表現を見せつつ、「ロンド」では曲調に合った跳ねる音や硬派な高音の魅力を聴かせてくれました。
私が一番好きだったのは「英雄ポロネーズ」です。期待を裏切らない風格と余裕。毅然としていて、行進の風景が見えるような気高さ。長い指で奏でるポロネーズの気品!溜めやリズムの取り方が好みでした。硬派な演奏かっこよかったです。
まだ21歳というから驚き。堂々の演奏でした。
Xuehong Chen(シエホン・チェン)
スタインウェイ 479
とてもまっすぐで素直な音を出す方で、わざとらしく溜めたりもったいつけたりしない演奏が素敵でした。
そんな彼の良さは「舟歌」にとても表れていました。舟歌は割とゆったりめに弾く人が多いけど、Xuehong Chenは動きがあるリズム。でも決して速いというわけではなく、聴いていて漕ぐシーンが浮かぶような気持ちいい揺れ。曇りのないまっすぐな音が響く様子は美でした。
午前前半の感想
Kai-Min Changの選曲と曲順が印象的でした。他の人があまり弾かない3つのエチュードやロンドは新鮮に見えるし、記憶に残ります。間にエチュード、ワルツ、ロンドを入れて最後をポロネーズで締めたのも、お見事な演出でした。
10月11日 Morning Session 後半
モーニングセッション後半の出場者3人も1次予選を拝見しておらず。まっさらな気持ちで視聴。
バラード第1番 / Ballade in G minor, Op.23
Federico Gad Crema(イタリア)
2つのポロネーズ / Polonaises, Op.26
Alberto Ferro(イタリア)
バラード第4番 / Ballade in F minor, Op.52
Hyounglok Choi(チェ・ヒョンロク)
スタインウェイ 479
塩顔な韓国のオルチャン系ピアニスト。
彼が持つ艶っぽいロマンティックな世界観がかなり私好みでした。守護神の妖精がまわりにいるかのような空気が素敵。
幻想的な世界を見せてくれるようなプレリュードで始まり、和音の響きと流れる音が美しいスケルツォ第4番。猫のワルツはお上品でした。
私が一番好きだったのはロマンティック全開だった「バラード第1番」です。かなりたっぷりめに弾く方で、彼の世界観に浸れる絶妙な速度。うっとりしてしまいました。
最後の英雄ポロネーズもやっぱり艶で、最初から最後まで彼の世界観に包まれて完。彼が持つ雰囲気の魅力満載で心持っていかれました。
演奏中に鼻をすすっていて、曲間は鼻を一生懸命吹いてたけど、風邪なのか鼻炎なのか。風邪ならお大事にしてください。
Federico Gad Crema(フェデリコ・ガッド・クレマ)
Faziolii F278
若きイタリアのピアニスト。ポロネーズを連続で弾いたのが印象的でした。
私が好きだったのは「2つのポロネーズ」です。2次予選でこの曲を弾く人は彼だけだったようです。物悲しい響きの中にも、ダイナミックな音や品がある華やかな響きが素敵。キラッと輝くような音がさらりと出てきます。嫌味がない溜めや音の運びで、センスが好きだなと思いました。
最後はファツィオリの音を活かすような華やかなワルツ第5番でしたが、若いのに悲しめの選曲なんだなとしみじみ。
Alberto Ferro(アルベルト・フェッロ)
スタインウェイ 300
真面目そう賢そうで、ピアノもそんな感じでした。優しく品がある音。
たっぷりめに弾く方で、「バラード第4番」は彼の弾き方と柔らかい音の魅力を感じました。全体的にソフトタッチなピアノ。繊細な音づくり。あまり表情変えずにスマートに弾きこなしていますが、ジェントルマンな感じが演奏にも表れています。
左手に指輪をしたまま演奏していて、パートナーがいつもそばにいるような感覚で演奏してるんだな、素敵だなと思いました。
午前後半の感想
Hyounglok Choiのロマンティックな世界観に浸りました。最初から最後まで世界観を作り上げたパフォーマンスだと、やはり印象に残ります。本人が意識的か無意識なのかわからないけど、彼だけが持つ魅力に思えました。
10月11日 Evening Session 前半
日本人の古海さんが出るイブニングセッションの前半。3人とも特徴が出ていて、なかなかおもしろい回でした。
幻想ポロネーズ / Polonaise-Fantasy in A flat major, Op.61
Alexander Gadjiev(イタリア/スロベニア)
舟歌 / Barcarolle in F sharp major, Op.60
ワルツ第5番 / Waltz in A flat major, Op.42
Avery Gagliano(アメリカ)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ / Andante spianato and Polonaise in E flat major, Op.22
Yasuko Furumi 古海行子
スタインウェイ 479
古海さんの演奏を見て、とても度胸がある方だと思いました。
最初に弾いた「ポロネーズ第5番」は堂々としていて、力強さと優しさを感じる音が響いていました。
私が好きだったのは次に弾いた「幻想ポロネーズ」です。不思議な幻想的な響きや弱音が美しかった。力強いポロネーズ5番と異なる世界観を見せてくれました。
さらりと弾いた「舟歌」も心地よかったです。お辞儀もさらりとしていて、動じない強さがありそうな方。
Alexander Gadjiev(アレクサンデル・ガジェヴ)
SHIGERU KAWAI
カワイのピアノを上手に操るガジェヴ氏。物語を描くような曲順は練られたものでしょうか。
始まりのプレリュード、プレリュードから間を開けずに船が動き出すような舟歌、凛々しいポロネーズ5番、楽しいワルツ、ゆっくり1日を終えるようなバラード2番。曲ごとに目の前の光景が変わっていくような演出でした。
プレリュードから情景を変えていくような「舟歌」が煌びやかだった。カワイの高音が響きます。さらにカワイの低音の迫力を活かしながらも、さらりと弾くのが乙な感じです。
「ワルツ第5番」はカワイのピアノを上手に操り、クリアな音が響いていました。リズミカルさや軽妙さが好きでした。
最後は豪快な曲で終える人が多い中でバラードで渋い終わり方。物語を静かに終わらせるような演出で魅せてくれました。カワイのピアノの音を活かした独創的なショパンに感じました。
Avery Gagliano(エイヴリー・ガリアーノ)
スタインウェイ 300
2020年の「ショパン国際コンクールinマイアミ」1位で予備予選免除のピアニスト。
この方は音の粒が信じられないくらい美しかったです。
バラード3番、ノクターン17番はたっぷりめの演奏。柔らかい音は懐かしい感じもして、ノスタルジックな気分にも。心地良すぎて深い眠りにつきそうでした。
そんな宝石のような音で奏でる「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、光の粒が見えるよう。まあるい流れるような美しい音は芸術作品でした。これは森林浴ならぬ音楽浴によるリラックス療法に近い。うっとり幸せな気分で聴き惚れました。
音も所作もお顔も気品あふれる宝石箱のような方でした。
午後前半の感想
Alexander Gadjievの演奏を聴いて、煌めく音やしっかりした低音が出せるカワイのピアノの音が彼の演奏に合ってるなと思いました。カワイのピアノがすごいのか、彼がカワイのピアノの扱いが上手なのか。
2次予選で今までカワイを弾いたのは沢田さん、J J Jun Li Bui、Alexander Gadjievの3人。3人とも音がすごく印象に残っていて、キラキラ煌めいていて素敵でした。
特に沢田さん、J J Jun Li Buiが弾いたアンダンテ・スピアナートや、Alexander Gadjievが弾いた舟歌は、カワイの高音が輝いて聴こえました。
10月11日 Evening Session 後半
楽しみに待ってました!スペインのヒホンが生んだ大砲(←勝手に命名)Martín García García(マルティン・ガルシア・ガルシア)くんの登場です。
スケルツォ第2番 / Scherzo in B flat minor, Op.31
ポロネーズ第6番(英雄ポロネーズ) / Polonaise in A flat major, Op.53
Eva Gevorgyan(ロシア/アルメニア)
バラード第3番 / Ballade in A flat major, Op.47
Martín García García(マルティン・ガルシア・ガルシア)
Fazioli F278
今大会の話題をかっさらっているスペイン北部の町ヒホン出身のピアニスト。スペインの唯一の出場者です。
1次予選の時の蝶ネクタイもスペインのクリスマスやなと思ったけど、2次予選は白いチャレコと蝶ネクタイで髪をまとめて登場。めっちゃおしゃれ。
彼の魅力は、彼自身が彼の音楽の1番のファンであり、それによって見ている人たちも彼の音楽を好きになること。
肝心なところでミスタッチしたりするガルシアガルシアくんですが、彼の音楽が奏でられるならそんなの気にならないです。それよりも大切なことがあると思うような音楽。
ファツィオリの華やかで煌びやかな音をよく活かしたワルツ2番、バラード3番、素敵でした。
彼はテノール歌手のように歌いながら弾くスタイルですが、だからこそ彼の音楽は歌っています。音を楽しむのが音楽だと改めて感じる演奏。
「スケルツォ第2番」を歌いながら弾くのは気持ちよさそうです。豪快なスケルツォ。中間部は美しく、目立つ主役のようなはなやいだ音。
ハンカチで顔を拭いてすぐ入った「英雄ポロネーズ」弾き始めも潔くてかっこいい。音外すのも気にしない豪快さ。心から歌っていることが伝わる情熱的でハートフルな演奏で、見ている人の心を掴んで離さない。弾き終わってすぐ立つ姿も潔い。まさにパッション!
もう一度見たいか?見たいに決まってるじゃん!
Eva Gevorgyan(エヴァ・ゲヴォルギアン)
スタインウェイ 479
ロシアの期待の星の肝が据わった17歳。
拍手喝采のガルシアガルシアくんの後、空気を変えて聴かせる「バラード第3番」から入りました。安定感がある演奏で、ミスもほとんどない感じ?力強くてとても17歳とは思えない貫禄。バラード3番を歌い上げる姿は勇敢にも見えました。
泣かせる「ワルツ第3番」も素敵でした。しっとりした曲が合いそうな方。
ポロネーズ第5番はかなり迫力があり、狂気迫るものがありました。怒っていたのか、そういうキャラなのか、ポロネーズ5番だからそうなったのか。いろんな意味ですごい17歳だなと衝撃でした。
メモに書いたのは「狂気迫る17歳のメーテル」
午後後半の感想
昨日に引き続き最後のセッションに濃いものが来ますね。
ガルシアガルシアさんはスペインのヒホン(北部)という真面目な気質の人が多い町のイメージだけど、他の出場者さんたちが皆さんおとなしい感じの人が多いので、その中に入ると「スペイン人ってやっぱり情熱的だね」と言われそうだなと思いました。
大舞台でも臆せず潔く弾く感じは、カラッとしたスペインの気質っぽい感じがします。
演奏が終わって2次予選のこれまでで1番長い拍手喝采を浴びるガルシアガルシアさんを見て、ポーランドの聴衆も意外と豪快なのが好きなんだなと思いました。ポーランドの聴衆にも彼のほとばしる情熱が伝わったご様子!
2次予選3日目を聴き終えて
初日にも認識したけど、プログラムの魅せ方はとても重要なんだなと改めて感じた次第です。
審査員はプログラム構成をどこまで重視しているのか素人にはわからないけど、一視聴者として見ている分にはピアニストの個性が際立つプログラムや物語性のあるプログラムだとやっぱり見入っちゃいますね。
2次予選はいろいろなポロネーズやワルツが聴けるのが楽しいです。
これを書いている本日は2次予選最後の4日目。1.5時間後に始まります。そろそろ寝不足がキツイけど、今日も楽しみです!
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