ふくよかな手で奏でる包容力 ヤコブ・クシュリクのピアノ

第18回ショパンコンクールで第4位だったヤコブ・クシュリク(Jakub Kuszlik)さん。
予選からファイナルまでずっと上位通過だったのに、ご本人は「ファイナルまで残ると思っていなかった」というのが驚きです。
控えめな感じで、でもとても安定感があってどっしりした、ふくよかな手で奏でる包容力が抜群。コンクールでは父なる印象を受けました。
大曲を弾きながら演奏途中で髪をかき上げる姿も印象的。あの動作も自分のテンポを取るのに必要なのではないかと思ったくらい、体に染み付いている動作のようでした。
ヤコブさんのインタビュー
ポーランドラジオのインタビューでは、ヤコブ・クシュリク(Jakub Kuszlik)さん含めポーランドの人たちは母国語のポーランド語で話しているので、情報量が多く興味深い内容が聞けます。
と言っても私はポーランド語がわからないのですが、YouTubeのインタビュー動画のコメントに英語で要約を載せてくださっている方がいて、ヤコブさんのインタビュー内容もその要約で理解しました。要約書いてくださった方、ありがとうございます。
そのインタビューによると、ヤコブさんはファイナルに進出すると思っていなかったそうなんです。
日本のSNSなどでは割と早い段階からヤコブさんは優勝候補じゃないかと言われていた気がしますが、ポーランドではそうではなかったんですかね?3次予選進出が目標だったようで、ファイナルまで残るとは思っていなかったようです。
なので、コンチェルトは一番練習していなくて、ファイナル進出を聞いた時はしばらく言葉を失ったのだとか…。
予選はずっと上位通過だったヤコブさんが、ファイナル進出を自ら想定していなかったとはビックリです。お辞儀の仕方やインタビューから、思慮深さや謙虚さが伝わります。
それと、ワルツは自分にとってチャレンジングな曲だったというコメントも意外でした。2次予選ではワルツOp.34をNo.1〜No.3まで3曲連続で弾いてたし、そのワルツがとっても素敵だったので、ヤコブさんはワルツお得意なのかなと思っていたんです。
ヤコブさんは暗め重ための曲の方が好みだそうで、ワルツのような軽快な曲のタイプではないとご自身で分析されているようです。なるほど、やはり陰タイプなのかな。
英語の要約を日本語にするとこんな感じです。YouTubeのリンクに飛ぶと、コメント欄に英語の要約があります。
ファイナル直後のインタビュー
全てのステージで演奏が終わってホッとしたし、ワルシャワフィルと共演できたことを誇りに思う
マエストロ(指揮者)はとても協力的で楽しく、小さなミスをカバーしてくれた
本選まで進むと思ってなかったから、コンチェルトは一番練習してなかった
この協奏曲はピアノのソロの部分が多く、ほとんど1人で(コンチェルトの)準備していた
3次予選と2次予選のポロネーズ5番がコンクールの中でのベストパフォーマンス
ファイナル進出を知った時はしばらく言葉を失った
彼女と先生に感謝している、彼女は練習中の厳しい審判のようだった
上位入賞したらどうするとインタビュアーに問われ、数日言葉を失うと答えた
メディアで注目されだしたことを楽しんでる、前はそんなに注目されてなかった
今はピアノから離れて長い休息を取ることを考えている
ファイナル直後の時点では入賞を想定されていなかったようです。ピティナのインタビューでも3次予選に残るのが目標だったこと、全てが想定外で嬉しいと話されていました。
コンクールが終わったら長い休息を取ることを考えていたようですが、ファイナリストだし入賞したしできっと仕事のスケジュールががんがん埋まってると想像。年末年始はゆっくりできるといいですね。
ファイナル後のインタビュー▼
3次予選後のインタビュー
3次予選に進めたことを嬉しく思っている、友人の何人かは幸運がなかったので少し動揺もした(不安に思った?)
3次予選の演奏については複雑な気持ち(不完全な部分について言及)
ショパンの音楽はロマンティック、ドラマティック、哲学的
幻想曲のようなショパンの晩年の作品の哲学的な叙事に、彼の天才的な部分を見ることができる
深い叙事がある幻想曲を弾くのが好き
ポーランドの若いピアニストは成熟したアーティストにとても影響を受けるため、自分自身のスタイルを開発するのが難しい面がある
自分自身の音楽のためにショパンを再発見する必要があった
他の人の演奏を観たり、聴いたりして、自分のピアノの演奏で避けたいものを決めていくことで、学んでいくことができる
最後の文、英語で訳してくださった方が“avoid:避ける”という単語を使っていました。元のポーランド語がどのような表現なのかわかりませんが、何をするではなく、何をしないかの選択。ヤコブさんの演奏は、余分なものを削ぎ落としていく引き算なのかなと感じたりしました。
3次予選後のインタビュー▼
2次予選後のインタビュー
2次予選はあまり緊張しなかったけど、プログラムは1次予選より要求が多いものだった
ワルツが最もチャレンジングだった、軽快なタイプの曲は普段弾かない
暗めで重ための曲の方が好みで、ブラームス、シューマン、ドビュッシーなどドイツ、フランスの作曲家の曲を演奏するのが好き
地理学、テクノロジー、天体物理学など多くの興味を持っている
朝型ではないので、コンクールでは午後のセッションでよかった
かつてはこのコンクールに参加を考えていなかった、アーティストとしてコンクールなしでやっていこうと思っていた
その後考えを変えて、今ここにいる
興味の幅が広い!天体物理学、星とか好きなのかな。天文学は音楽と深い関係があると、古代ギリシアでは考えられていたものね。宙ボーイヤコブさん似合いそうです。
2次予選後のインタビュー▼
どのような考えの変更があってショパンコンクールに出場しようと思ったのかについては、ショパンコンクール公式の出場前インタビューで少し語られていると思います。
年齢とともにピアニストとして変化し詩的な音に興味を持つようになり、ポーランド人としてショパンのレパートリーを増やしていく中で(それはとても自然なステップだった)、コンクールに出場することを決めたと。
コンクール出場前のインタビュー▼
ヤコブさんのショパントーク
ファイナル後にファイナリストが集まったショパントークのヤコブさんは、だいぶ面白かったです。
ストレス解消法でみんながスポーツの話をした後に話題を振られ、「僕スポーツ大っ嫌いなんだよね」と話してました。「I don’t like」じゃなくて楽しそーに「I hate」って言ってたから本当に嫌いなんだと思います。「どちらかというとeSportsの方が好きなタイプ」と言っていて、この方おもしろいなと思いました。
ポーランド人としてショパンコンクールに出場することへのプレッシャーはもちろんあった、ピアノを習い始めた頃から「いつかショパンコンクールに出るんでしょ」と言われていたと語っていました。
ショパンコンクールに出場するだけでもきっとすごいプレッシャー。ポーランドの方々はさらに地元の並々ならぬ期待を背負うことになり、精神力が求められるのだろうなと改めて感じました。
ヤコブさんもショパンコンクールに出場すると決めてから、プレッシャーと戦ってきたのかな。
そんな地元ポーランドの熱い期待もあってか、「僕はクラクフの隣の小さな町出身だけど、ファイナルに残ったことで地元ではスーパースターみたいになってる」ともおっしゃってました。地元だけじゃなく、世界的にもスーパースターになってると思いますけど!
ファイナル後のショパントーク▼
謙虚な感じのヤコブさん
ショパンコンクールの時、ヤコブさんは弾き終えたらすぐ退場していました。
舞台を噛み締めながら挨拶する人も多い中、ヤコブさんはサッと挨拶して一瞬にこやかに笑ってスッと退場する。すごく謙虚な方なのかな?
ファイナルの時も「じゃ僕弾き終えたんで帰ります」みたいな感じで、マエストロ・ボレイコに「もっと挨拶しなよ」みたいに促されて恥ずかしそうにしてました。
個人的にショパンコンクール予備予選の名演「幻想曲」終了後からの退場シーンのハニカミが最高で、何度も再生しています。
ヤコブさん予備予選演奏からスタート▼
おおらかなヤコブさんの演奏
ヤコブさんの演奏は大海を思わせるおおらかさと、何度も聴きたくなる心地よさがあります。
予備予選の幻想曲、1次予選のスケルツォ、2次予選のポロネーズ Op.44、3次予選のソナタ。予選ごとに唸る演奏を見せてくれました。
11月11日のリサイタル配信すばらしく、ブラームス、ショパンと楽しんだ後の、アンコールのワルツも絶品でした。
ちなみにヤコブさんはコンクールのアーティスト写真と実物がだいぶ印象が違いましたが、私は現在のふくよかな感じが好きです。包容力を勝手に感じています。
直接聴ける日を楽しみにしています。
おすすめ記事 ▷ 11/23 ヤコブ・クシュリクのリサイタル視聴 ポーランドラジオ
追記:ヤコブさん、2022年2月にポーランドラジオレーベルのアルバム出してました。以前リサイタルで演奏していたブラームスとショパン。ご本人のお気に入りを集めたアルバムなのかな?マズルカの鬱々とした音色と独特なリズムがすばらしい。
▶︎ Brahms, Chopin Jakub Kuszlik(Amazon Music)
▶︎ >Brahms, Chopin Jakub Kuszlik(Apple Music)
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。